*第一話『穴』*大作と彼女-5ページ-
それでもなお疑いのまなざしを向ける人がいるだろう。
何が起こるかわからないご時世だ。夫の行方不明、戸惑う妻・・・という構図で犯罪を隠蔽しようとしているのかもしれない。
そう疑う余地は確かにあるかもしれない。現に彼女は夫の捜索願を届け出てはいないし、探偵という職業とそのツテをいかそうともしない。
とまぁ、一般論に照らし合わせると、いよいよ彼女に裏がありそうな気がしてくる。
だが、あくまでもそれは一般論に過ぎない。
なぜなら・・・これはしっかり聞いてもらいたいのだが、彼女自身、夫が帰ってこないことをどう思っているのかと聞かれたら、間違いなくこう答えるだろう。
「まだ仕事から帰って来てないんですが」
このコメントは、彼女がバカなわけでもなく、ましてとんちや、なぞなぞの類でもない。
彼女は本気でそう思っているのだ。
無論、彼女のその思考を理解することはできないだろう。
ここで話が少しそれるが、彼女がなぜそう思えるのかを簡潔に説明しておこう。
それを知るには、彼女の夫、藤心大作について説明せねばなるまい。
職業は、あきらと同じ探偵だ。つまり夫婦そろって同じ職業なわけだが、残念ながら功績を比べるならば、月とスッポンといった所だろう。
まず、仕事の規模がでかい。
たいしたことのない事件に限って、いつも裏組織に出くわす。
どこへ旅行に行っても、結局はいわくつきの宿に泊まるハメになる。